君を待つ
telling tale


きみは、車に乗ってどこかへ向かう途中だった。

空は高く遠く、

周囲では乾いた風が吹いていた。

道は、後にも先にも果てが見えないほど、延々と続く。

車は風を切り、穏やかな下り坂に差し掛かる。

次第に道は細くなり、空気に湿度と命が満ちてくる。

やがて、車は静かに停まる。

きみは車から降りながら、思い出す。
自分は、大事な人を探しに来たのだった、と。

きみは、自分の名前を思い出せないことに気付く。

思い出そうと努めるきみに、周囲の植物たちが笑いかける。
それでも、きみはきみ。ここに今きみが在るから、じゅうぶん。

植物たちの言う通りだ、ときみは思う。
きみは、一歩を踏み出す。

きみの前には、無数の小道が好き勝手の方向に伸びている。
少し迷い、きみは一番緑の濃い道を選ぶ。

道すがら、きみはたくさんの魅力的なものに出会った。
そっと触れては暫く眺め、そうすることが可能であればポケットに入れた。

きみはたくさんの生き物とも出会った。
あいにく彼らはポケットに入れるものではなかったが、一緒に行こうと誘えば、応じる者もいた。

きみはたくさんの素敵なものを抱え、共に歩く仲間を得て、また歩いた。

時折、知らないうちにポケットの中身が空になっていたり、共に歩く顔ぶれに変化があったりした。

きみが悲しいとき、新しい仲間たちはきみの背中を押し、急かした。
きみが悲しいとき、古い仲間たちは黙ってきみの肩を抱いた。

明くる日、前から誰かが近付いてくる気配があった。
これは珍しいことだった。

きみは、期待に胸を膨らませる。
きっと一等素晴らしい出会いに違いない。

出会いは、不思議と静かなものだった。

それは、きみと共に歩く生き物たちと比べると、きみにそっくりな生き物だった。
ほとんど生き写しと言っても良い。何しろ、きみの仲間たちはとても多種多様だったから。

きみは、どきどきしながら相手に手を差し出して挨拶した。すると相手も同じようにした。
触れ合った手と手で、ぎゅっと握りあった。

相手が笑った。

急に、きみはめまいを感じる。
どうしようもなく嬉しいのに。

相手が、また笑う。
きみは、急激に眠くなり、立っていられなくなる。
笑い返せていれば良いのだけれど、ときみはぼんやり思う。

ありがとう

それを聞いたきみは何故かすっかり安心して、いよいよ座り込んでしまう。

ひとつ、ふたり、ひとつ。柔らかいもの、硬いもの。

大小様々の生き物たちが、眠り始めたきみの身体に寄り添い、乗り上げる。

きみたちは大きな塊になり、丘になる。

最後に、きみが先ほど出会ったばかりの誰かが、きみたちに加わる。
きみと仲間たち皆を抱くように。

きみたちだった丘はいずれ溶けだし、川になって四方へ流れる。

川は海水になり、更に遠く、思い思いの方角へ流れ、ちぎれていく。

ちぎれたものは、また何か別の新しいものになる準備を始める。

新しいきみたちは、他のきみがやって来るのを、また暫く、楽しみに待つ。